Rainny X'maseve

 

何事もなかったおかげで定時に仕事が終わった日のこと、
尾室はやけに急いで帰る仕度をしていた。
「お疲れ様でした。」
「ずいぶん急いで帰るんですね?」
「やだなあ、氷川さん。きょうはクリスマスイブですよ。
そりゃ、彼女とデートくらい当たり前じゃないですか。」
「あっ。」
初めて思い出したように氷川は声をあげた。
「その様子だと、予定無いんですか?」
かわいそうに、と言いそうになって慌てて尾室は口をおさえる。
余計なことは言わないのが一番だと身に染みている。
「あっと。それじゃ、お先に失礼します。」


「あら、尾室君、もう帰ったの?」
業務日誌を提出しに行っていた小沢が戻った時には尾室の姿はすでになかった。
「クリスマスイブですから…」
「ああ、そうよね。氷川くんは恋人とイブの約束とかないの?」
「…」
「ここでのんびり油売ってるようじゃあねえ。愚問だったかしら。」
「僕は!いいんです!アンノウンがいつ出現するかわからない今は、仕事が第一なんですから!そんな余裕なんか無くても。」
ちょっと負け惜しみ気味の言い訳だけれども、間違いではない。
「そう?」
「そう言う小沢さんこそ。イブの約束、無いんでしょう?」
「それこそ、仕事に情熱かたむけてるもの。私は。G3システムが恋人よ。」
こちらは負け惜しみでも何でもなく、本当にそう思っているようだ。
「それよりも氷川くん、今の言葉はセクハラよ!?」
「そんな。小沢さんが先に言ったんですよ?」
「あら。」
「まあ、いいわ。氷川くん、予定がないんだったら飲みに行かない?」
「どこも混んでますよ。きっと。」
「わかってるわよ。でも、この浮かれた夜に一人で食事するなんて惨めじゃないの。」
「…そうですね。」
「そうと決まったら、早速行くわよ。」


そして、結局いつものように焼肉屋。
思ったほどは混んでおらず、少し2人は拍子抜けした。
「やっぱり、カップルはおしゃれなレストランにいくわよねえ。今日くらいは。」
「ええ、今日くらいは奮発しますよ。さすがに。」
ため息をつきながら、焼肉をつつく。
2人とも、いつもより酒量が多いのは気のせいではないらしい。
「じゃあ、今の私達って周りからどういう風に見られてると思う?」
「え?」
「クリスマスイブにレストランの予約取りそこねた、おっちょこちょいの彼氏とその彼女。」
「ぶはっっゲホゲホ」
「そんな、むせることないじゃない。」
「失礼。見えますかね?カップルに。」
「親子には見えないんじゃない?」
「友達とか。」
そう言いながらふと、焼肉屋の定説を思い出す。
カップルに見えるなら、その定説通りだと思われてるんだろうか?
そう考えると少し気まずい。
「姉弟には見るかもしれませんよ?」
「…そうね。」
いつもの焼肉屋なのに。
尾室がいないだけで、こんなに雰囲気が変わってしまうとは思っていなかった。


店を出ると、
ぽつりと、冷たい物が氷川の頬に落ちてきた。
落ちてくる速度で、それが雨だとわかる。
「ああ、小沢さん、雨が降ってきたようですよ。」
そう言いながら、彼は折畳み傘を取り出す。
「雨?雪じゃなくて?」
「雨。」
「確かに降水確率90%って言ってたけど…」
小沢は傘を持ってきていないのか、そのまま歩いて行く。
「ええ。今日は寒かったから、降るなら雪だと思ってました。」
「私も。」
ふと、氷川が立ち止まる。
「僕らの仕事への情熱が雪を溶かしてるんじゃないですか?」
少し酔っているせいか珍しく饒舌である。
小沢も立ち止まり、彼を見上げると、少し考え込むような仕草で首を傾げた。
「違うわよ、氷川くん。」
まっすぐ見つめる。
「雪を溶かすのは、私達の愛の力よ?」
「え?」

「小沢さん、さっきから何気に誘ってます?」

返事の代わりに、
彼女はにっこり微笑む。

観念したように、
彼は彼女に傘をかたむけると並んで歩き出した。




クリスマス企画です。ハイ。
もう、完全に原作無視してるとしか思えません!
絶対こんなにオザヒカは…というかこんな甘い小沢さんはありえないでしょう。
いつものことですが、ほとんど台詞だけですので
行間は好きなように妄想力を働かせてください。

ちなみにこれはイブのお話


 

 

 

 

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