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アギトである人物に会った、と
興奮覚めやらぬ様子の青年から報告を受けたのは、Gトレーラーでのミーティング中だった。
その、木野という男に心酔した様子の部下に釘をさす。
「純粋な人間なんているはずないわ。」
「私が知っている中で、まあ純粋だと言えるのは氷川くん、あなたと津上翔一くらいかしら。」
それに不満をあらわにする彼を見て、私は少し危機感を感じた。
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人間は生きていくうちに、エゴと嘘にまみれてけがれていく。
純粋な人間など、そうそういるものではない
それでも津上翔一はまだわかる。
もともとの性格もあるのだろうけど、
記憶を失って、過去にしばられることがなければ、
子供と同じような純粋さを再び持ち得たとしても不思議じゃない。
不思議なのは氷川誠。
警察なんて、国民を守るなんてきれいごとを言ったって、
所詮犯罪者相手の仕事。
人を疑って当然。人間の裏の顔なんてさんざん見てきてるはずなのに。
それでもなお、あれだけ人間を信じられるなんて、その方がどうかしている。
「僕は小沢さんを信じていますから。」
言い切る、真っ直ぐに見つめる瞳の強さ。
上司としてはその方がやりやすいこともあるのだけれど、
でも…
警察(ここ)にいれば
いつかあの純粋さを失っていくのだろうか?
そうでなければ…
きっと、長生きできないだろう。
あの純粋さは、いつか彼を殺す。
ここはそういうところだから。
どちらにしても、
私はそんな彼を見たくはないと思っていた。
だから
その為にできる限りのことをするつもりだった。
***
「あなたが氷川さんにこだわるのは、上司としてなんですか?それとも…」
1人で休憩をとっているとき、不意に声をかけられた。
北條徹。エリートらしくプライドの高い男。
それ故にG3装着員に向かないことを、私には分かっていたが、
彼にとってはそうでなかったらしい。
その事を根にもっているのか、それとも、もともとそういう性格なのか、会うたびにやたらと嫌味なことしか言わない男。
「下世話な質問をするじゃない。あなたらしくも無い。」
「あなたこそ、らしくないですよ。」
私は軽くねめつけるとその先を促がした。
「どういう意味よ?」
「何故、氷川さんにそれほど肩入れするんです?
あなたはもっと、他人と距離を置いて冷静に物事を分析できる人のはずでしょう。」
「それは、褒められているのかしら?」
「私は事実を言ったまでです。」
「そう。」
それはあながち間違ってはいない。
私も、自分でそう思ってきたから。
でも…
「人間なんて、いつ変わるかわからないじゃない?
私も、あなたも例外ではなくてよ。」
「あなたは変わったというのですか?小沢さん。」
「さあね。」
そう答えて、私は話に興味を失ったように踵を返した。
更になにかを言いたそうな彼の視線を背中に感じたが、振りかえるつもりはなかった。
きっと、北條徹の言ったことは間違ってはいない。
私が変わったというのなら、
守りたいものができたから。
そして、今こそ何かをしなければならなかった。
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目の前に津上翔一がいる。きっと本当のアギト。
「よかった。あなたがアギトで。」
純粋な魂は、きっと同じく純粋な魂を救ってくれるだろう。
「氷川くんを助けてくれるかしら?」
アンノウンから
木野から
彼を殺す、すべてのものから
結局、私にできることは託すことだけで。
「慣れてますから」
それで安心する。
想いの強さで人を守れるなんて思ってもいないけど、
それでも、自分がこんなに弱いなんて考えたことがなかった。
キミシニタマフコトナカレ…
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