恋ノウタ


「雪…」

それは不意に彼の肩に落ちてきた。
なるほど寒いはずだ、そう思って空を見上げれば
舞い降りてくる白い結晶が彼の視界を遮る。
1000年経っても変わることない自然の営み。
彼は、それを美しいと言った人のことを想った。
思いながら、自然と足はその人との思い出の場所にむかう。


黒羽谷

この地に降る雪をかの人は美しいと言った。
彼はその面影を追うように、彼女と親しんだ曲を笛で吹き始めた。
その音色は自然の一部ででもあるかのようにのように、静かに雪と共に降り積もり谷を覆い隠していく。
雪景色の中、いつしか彼もその中に溶け込んでいた。


「シロガネの…」

どれほどの時間が経ったころだろうか、
古い名を呼ぶ声で我に返る。
声のした方を振り向けば、そこにはテトムが―現在のガオの巫女が佇んでいた。
いつからそこにいたのか、
無心に笛を吹いていた彼にはわからない。
ただ、彼女の外套にうっすら積もる雪を見れば、ついさっきなどではない事は確かだった。

「白銀の衣に替えて黒羽谷 だれのためにぞ装うべきかな」

その和歌の真意をはかりかねて、彼はテトムを見た。

「紫おばあちゃんが、詠んだ詩よ。」
「私はちいさかったから、素直にこの景色の美しさを詠ったものだと思ったの。
でも、このうたを詠んだときの悲しそうな顔が忘れられなくて…」
「そうか…」

しばしの沈黙。
ぽつりと彼女がつぶやく。
「きっと、シルバーのことを思い出していたんじゃないかと思うの。」
哀しげに白銀の景色を見つめる祖母は、幼心にあまりにも美しかった。
だからこそ、鮮明に覚えているのだ。

再び沈黙が二人の間に訪れる。
少しだけ、テトムが居心地の悪さを感じ始めた時、
ようやく彼は口を開いた。

「黒羽谷 千代にかわらぬ雪化粧…」

詩を詠もうとして、途中で口を閉ざしてしまう。
そうして、立ち尽くして雪を眺める。

「駄目だな。続きが思いつかない。」
「それじゃ俳句よ?」
「そうだな。」

そして、彼は再び笛に口を寄せた。

 


 

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