赤い糸

 

 

雨が降っていた。
戦いの趨勢はほぼ決まったようだった。
唸るような叩き付けるような音が聞こえていたが
それが鬨の声なのか強すぎる雨の音なのか判別は困難だった。
あるいは両方なのかもしれない。
どちらにしろ、彼女にとってそれは何処か遠くの出来事と差異がない。
今この場所で動くものは彼女だけで、
生命を感じるモノは何一つ残ってはいなかった。
たしぎは右手に握った愛刀を一振りして血糊を払うと鞘に収めた。

 

さすがに疲れた…

 

荒い息を繰り返す。
上下するたびに左肩が痛んだ。
折れた感じはしなかったからおそらく脱臼でもしているのだろう。
力なく垂れ下がった腕からは赤く細い筋が数本、雨に流されるようにすべり落ちていく。
それほど大した傷ではない。
しかし、強すぎる雨に抉られふさがる気配はなかった。
まさかこのまま失血死ということもないだろう。
それでも、力が入らない身体を持て余してたまらずにたしぎは膝をついた。
こんな所に止っている余裕はない。
早く仲間の元に合流しなくては…
そう思うのに身体は動こうとしなかった。
自分の腕を赤い筋が伝って行くのを呆然と眺めながら
赤い糸のようだと思った。
運命の赤い糸。
きっとその先は誰かと結ばれているのだろう。
その考えは殺伐としたこの場にはおそろしく不釣合いだったけれど。
地面に落ちた血は他人のものと交じり合い、絡み合う赤い糸のようにも見える。
だとしたら、自分のそれはどこに辿り着くのだろう?
たしぎはぼんやりと血と雨で出来たその赤い流れを目で追った。
ふと、黒いものが視線の端で揺れた。
真っ直ぐに地面に立った、それは生きている誰かの足だ。
それがこちらに近づいて赤い糸の集塊を掻き乱す。
そんなにぐちゃぐちゃにしたら何処に続くのか見失ってしまう。
そう思って彼女が顔を上げたのと、声をかけられたのはほぼ同時だった。

「ぱくり女じゃねえか。」

その言葉に目を見張る。
刀を3本携えた緑頭の剣士がたしぎの目に映った。
賞金稼ぎで海賊で刀を私欲のために利用する悪党で。
そしてなにより、彼女に敗北という屈辱を与えた張本人で。
必ずもう一度会わなくては、と彼女が追い求めていた相手だった。

「ロロノア…!」

この男を討ち取らなくては、そう思うのに身体は重くいうことをきかない。
気持ちだけが逸って無理に踏み出そうとした足はもつれて、
たしぎは前に倒れこんだ。
泥濘に落ちる寸前、男の腕が彼女を抱きとめた。

「おい、怪我してるのか?」

左腕を捕まれると脱臼している左肩に激痛がはしった。
男の手に彼女の血が絡んでいく。
赤く濡れたその手を見ながら
唐突にある考えがたしぎの脳裏をよぎった。

 


ああ。そうか。
繋がってるのは―――――

 


そうして彼女は意識を手放した。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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